左右非対称な演奏姿勢をどう考えるか|楽器に合わせて身体を調整する

フルートとヴァイオリンの左右非対称な演奏姿勢と骨格を示すイラスト

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この記事で分かること

  • 演奏中に左右差が生じるのはなぜか
  • 楽器に必要な左右差と、調整できる左右差の違い
  • フルート・ヴァイオリンなどで身体の条件がどう変わるのか
  • 左右対称を目標にするだけでは不十分な理由
  • 自分の演奏姿勢にある左右差を観察する方法

結論

演奏姿勢には、楽器の形、構える位置、左右の手の役割によって左右差が生じます。フルートを身体の右側へ構える、ヴァイオリンを左肩側で支持する、ギターのネックを一方へ向けるといった左右差は、演奏課題そのものに含まれています。

したがって、音楽家の身体を左右対称な形へ戻すことだけを目標にすると、楽器に必要な動きを妨げる場合があります。

大切なのは左右差をなくすことではなく、その左右差がどこでつくられ、身体全体へどう分配され、必要に応じて変えられるかを観察することです。

左右差の大きさだけから、姿勢の良し悪しや痛みの原因を決めることはできません。楽器の支持、演奏時間、休憩、動ける範囲、負担感、症状の有無を合わせて考えます。

演奏姿勢に左右差が生じる理由

多くの楽器では、左右の手が同じ役割を担っていません。

一方の手が楽器を支持し、もう一方の手が広い範囲を動く場合があります。左右の手が異なる高さに置かれる楽器もあれば、頭部を楽器の方向へ向ける必要がある楽器もあります。

この条件に合わせて、肩甲骨、上腕、前腕、手首だけでなく、胸郭(きょうかく)、脊柱、骨盤、下肢の位置も変化します。

音楽家の演奏姿勢を扱った系統的レビューでも、姿勢負荷は楽器によって異なり、フルートやヴァイオリンのように両上肢を挙げる楽器では左右非対称な姿勢が一般的であると整理されています。

つまり左右差は、身体の誤りとして突然生じるのではなく、楽器と身体の接点、左右の手の役割、視線、譜面の位置が組み合わさった結果として生じます。

必要な左右差と調整できる左右差

演奏姿勢を考えるときは、左右差を二つに分けると整理しやすくなります。

楽器に必要な左右差

楽器の構造や奏法によって避けられない左右差です。フルートの管を身体の右側へ伸ばす、ヴァイオリンのネックを左手で支える、チェロの弓を右手で動かすといった条件が該当します。

環境によって調整できる左右差

椅子の向き、譜面台の位置、楽器の高さ、ストラップや肩当て、足台、共演者との位置関係などによって変えられる左右差です。

両者は完全に分離できません。楽器に必要な左右差があっても、その負担を一つの関節へ集中させる必要はありません。胸郭や骨盤の向き、足の置き方、椅子と譜面台の位置を調整することで、同じ演奏課題を異なる身体条件で行える場合があります。

左右差は一か所だけでつくられない

たとえば右側にある楽器へ手を伸ばすとき、肩関節だけで腕を運ぶことも、胸郭を回旋させることも、骨盤や足の向きを変えることもできます。実際の演奏では、これらが組み合わされます。

見た目が同じ演奏姿勢でも、どの部位がどの程度動いているかは人によって異なります。

  • 頭部と視線で楽器や譜面へ向きを合わせる
  • 胸椎(きょうつい)と胸郭(きょうかく)の回旋で上肢の到達範囲をつくる
  • 肩甲帯と肩関節で左右の手を異なる位置へ運ぶ
  • 骨盤と下肢で体重の移動や支持面を調整する

一つの部位を「左右同じ」に直す前に、身体全体で左右差をどう分担しているかを見る必要があります。

フルートではどのような左右差が生じるのか

フルートは、頭部の前方から身体の右側へ横方向に構えます。左手を口元側、右手を足部管側に置き、両上肢を挙げた状態でキーを操作します。

このとき、左右の肩関節、肘、前腕、手首は同じ位置にはなりません。頭部と胸郭の向きも、楽器と譜面へ合わせて調整されます。

フルート奏者の姿勢を外見だけで左右対称へ近づけようとすると、口と歌口の接点や、手指がキーへ届く条件を変えてしまう可能性があります。

観察するときは、肩の高さだけではなく、楽器を身体へ近づけているか身体を楽器へ近づけているか、胸郭と骨盤がどこを向いているか、譜面台がどこにあるかを合わせて確認します。

ヴァイオリン・ヴィオラではどのような左右差が生じるのか

ヴァイオリンやヴィオラでは、楽器を左側の鎖骨・肩・顎周辺で支持し、左手で指板を操作し、右手で弓を動かします。

左上肢は楽器の高さとネックの位置へ適応し、右上肢は弓の位置に応じて大きく動きます。頭部は左へ回旋・側屈する条件になりやすく、左右の肩甲帯にも異なる役割が生じます。

専門奏者を対象とした研究では、肩当ての高さによって楽器を固定する力、筋活動、主観的な演奏の快適さが変化しました。また、顎当てを変更した研究では、頭部姿勢や筋活動の変化は小さく、支持具だけですべての負荷が解決するわけではないことも示されています。

支持具には一つの正解があるのではなく、身体寸法、楽器、奏法、音への影響、慣れるまでの時間を含めて個別に調整します。

譜面台と椅子の位置も左右差を変える

楽器の構え方が同じでも、譜面台や椅子の位置が変われば、視線、頭部、胸郭、上肢の条件は変化します。

オーケストラでは二人で一台の譜面台を共有することがあり、譜面台の右側に座るか左側に座るかで身体の向きが変わります。ヴァイオリン奏者を調べた研究では、立位・座位・譜面台に対する座る方向によって体重配分や上半身の動きが異なり、座る条件によって右の弓腕の動きが制限される場合がありました。

これは、演奏姿勢を本人の習慣だけで説明できないことを示します。椅子、譜面台、隣の奏者、ステージ上の配置も、身体の左右差をつくる環境の一部です。

左右差と痛みは同じ意味ではない

左右非対称な姿勢が見られても、それだけで痛みや障害の原因と判断することはできません。

音楽家の姿勢と腕の痛みを扱ったスコーピングレビューでは、姿勢・バランス特性が痛みにどの程度関与するかについて、利用できる証拠はまだ限定的であるとまとめられています。姿勢研究は測定方法や対象楽器も多様で、研究結果を単純に比較しにくいという課題があります。

症状を考えるときは、左右差の見た目に加えて、同じ位置を保つ時間、反復回数、楽器の重量、練習量の急な増加、休憩、睡眠、心理的負担、過去の症状などを合わせて確認します。

左右差があるかどうかより、その姿勢から動けるか、負担を分散できるか、演奏後に回復できるかが大切です。

よくある誤解

左右の肩は同じ高さでなければならない

左右の腕の位置と役割が異なれば、肩甲帯の位置にも違いが生じます。肩の高さだけを揃えると、必要な上肢運動や楽器との接点を変える場合があります。

身体を正面へ向ければ左右差はなくなる

骨盤を正面へ向けても、楽器・手・視線の位置が左右非対称であれば、胸郭や頸部で向きを補うことがあります。身体の一部分だけで正面を決めることはできません。

左右差がある部位を反対方向へ伸ばせばよい

左右差がどの関節で生じているか、可動性・筋活動・支持のどれが関係しているかは人によって異なります。外見だけから一律のストレッチを選ぶことはできません。

左右均等に体重をかけるほど安定する

演奏では、フレーズや楽器操作に応じて体重が移動します。均等な体重配分を固定するより、左右の足や坐骨の間を必要に応じて移動できることが重要です。

自分の左右差を観察してみる

痛みのない範囲で、いつもの椅子・譜面台・楽器を用意します。

  1. 楽器を持たずに立つか座り、左右の足または坐骨へかかる体重を観察します
  2. 楽器を構え、頭部、肩、肘、胸郭、骨盤、足のどこに左右差が生じるかを確認します
  3. 短いフレーズを演奏し、左右差が固定されているか、演奏に合わせて変化しているかを観察します
  4. 譜面台の高さ・距離・左右位置を少し変え、視線と上半身の向きがどう変わるかを比べます
  5. 楽器を下ろしたあと、左右の感覚や動きやすさが元へ戻るかを確認します

左右を同じ形へ直そうとする前に、どの左右差が演奏に必要で、どの左右差が環境調整によって変化するかを分けて観察してください。

痛み・しびれ・動かしにくさがある場合

左右差の見た目だけから、症状の原因を特定することはできません。

痛みが続く、しびれや感覚の変化がある、腕や手に力が入りにくい、演奏していないときにも症状がある、夜間に症状が強い、外傷後に症状が始まった場合には、自己判断で姿勢を強く矯正せず、医療機関へ相談してください。

次の学びへ

前後の記事で順序を確認しながら、関係の深い別シリーズへも学びを広げられます。

参考文献

  • Rousseau C, et al. Assessing posture while playing in musicians: A systematic review. Applied Ergonomics. 2023;106:103883.
  • Garnett R, Pijl EM, Visentin P. Are Factors of Posture and Balance Integrated in Research Studies on Upper Extremity Musculoskeletal Pain in Instrumental Musicians?: A Scoping Review. Medical Problems of Performing Artists. 2022;37(4):278–292.
  • Schemmann H, Rensing N, Zalpour C. Musculoskeletal Assessments Used in Quantitatively Based Studies About Posture and Movement in High String Players: A Systematic Review. Medical Problems of Performing Artists. 2018;33(1):56–71.
  • Spahn C, et al. Comparing violinists’ body movements while standing, sitting, and in sitting orientations to the right or left of a music stand. Medical Problems of Performing Artists. 2014;29(2):86–93.
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  • Paarup HM, et al. The effects of an ergonomic chinrest among professional violin players: A biomechanical investigation in a randomised crossover design. Applied Ergonomics. 2023;110:104020.
  • Kok LM, et al. The occurrence of musculoskeletal complaints among professional musicians: a systematic review. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2016;89:373–396.
  • Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System.

情報レベル

B|基礎事実に基づく応用的解釈

本記事では、演奏中の姿勢計測、楽器固有の左右差、支持具や譜面台の条件に関する研究を土台に、演奏姿勢への応用を解説しています。個人に適した左右差のつくり方は、身体特性、楽器、奏法、演奏環境、症状によって異なります。

著者情報

執筆・監修

山本 篤

理学療法士/大阪芸術大学 解剖学非常勤講師/日本音楽家機能解剖学指導者協会 代表

音楽家に対して、解剖学・機能解剖学・生理学・運動学の視点から、演奏に関わる身体のしくみを解説しています。詳しい経歴は「プロフィール」ページをご覧ください。

もっと体系的に学びたい方へ

音楽家の身体について、さらに体系的に学びたい方のための学習機会をご用意しています。ご自身の演奏のために学ぶ段階から、音楽家へ身体を教える立場を目指す段階まで、学びの深さに応じて進むことができます。

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この知識を身体で試す

この記事で得た知識を、演奏前後の小さな身体実験へつなげてみましょう。楽器・関心・時間を選ぶと、今日の学び方を提案します。

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